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ギャア、という悲鳴が聞こえた。どたん、ばたんと悶えながら雑木林の中へ逃げて行く気配がある。
「うん、やっぱりヘビにはヤニだな」
先輩は笑ってそんなことを言いながら、フェンスを乗り越えこちら側にやってくる。
「柿渋があれば完全に退治出来るんだがな。あぁ、金が怖い、金が怖い」
俺はしゃがみ込んだまま、楽しそうな先輩を見上げる。
「なんだ、たのきゅうのウワバミ退治、知らないのか?」
きょとんとした顔で俺を見下ろす先輩は、いつになく幼く見えた。タバコを持っているのが犯罪的だ。
「腰が抜けてるのか。追い詰められたら諦めるし、いざ逃げるチャンスができれば腰が抜けるし、全く」
先輩は俺の襟首をつかんだ。下半身に力が入らず、立ち上がれない。む、と持ち上げてくれたが、逆に力が抜けてしまう。
「……自力で立て」
「うわ」
先輩は俺を持ち上げるのを諦めた。俺は尻を蹴られてつんのめり、四つん這いになった後やっと立ち上がった。
「ありがとうございます……」
「で、誰を連れて来たって?」
非難するような声色だった。恐る恐る顔を見ると、目に静かな怒りの色が宿っている。
「Aです」
「友達か。面倒なことしやがって」
ボヤいた先輩は、タバコを咥えて後頭部をバリバリと掻いた。
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