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……そういえば最近、魔王はよく来客用スリッパを履いている。
まさか自分で捨てたわけでもあるまい。いくら魔王でも。
厄介事の匂いがぷんぷんする。
魔王は教室で尊大な態度を崩さない。
それを、魔王だからな、と許容してしまえるのはたぶん俺だけだ。
とにかく奴はクラスの決まり事を守らない。
掃除もしなければ、黒板も消さないし、ノートも運ばないし、ごみ捨てだってしない。
協調性皆無である。
これで仲良くしろというほうが無理だ。
魔王にしてみたらそんな些事をどうして自分がやらなくてはならないのか、理解できないのだろう。
しかし、クラスのみんなにしてみれば、どうして全員がやっていることを魔王だけがやらないのか理解できない。
そこに軋轢が生まれるのは当然の結果である。
(だからってなぁ。……魔王だし)
俺に言わせれば、ちゃんと学校に魔王が通ってくること自体が不思議である。
前世で人間をがんがん殺してきた奴が、人間と一緒に机を並べて勉強しているのだからこんなシュールな光景はない。
初めの頃は、かなり警戒していた。
魔王が暴れまわったりしたらどうしようと。
しかし、しばらく注意していても奴が周囲に危害を加えることはなかった。
だから、ちょっと安心してもいたのだが……。
とりあえず見つけたものは、埃をきれいに取り払ってから、こっそり奴の下駄箱に返しておいた。面と向かって返すのは面倒だ。関わらずに済むならできるだけ関わらずにいたい。
なんて思っていたのに、いじめらしき行為は日に日にエスカレートしていった。
――意外なことに、魔王は弱かった。
前世で最強を誇った魔王も、魔力が使えなければただの小さな子供にすぎないのだと、同級生に小突かれる姿を見て少々複雑な感情を抱いた。
実際、それは俺にも言えることだが、複数でこられると魔王は圧倒的に不利になった。手も足も出せず、蹴られたりもしていた。
ときどき噛みついて反撃をしても、数の利には敵わない。反対に頭を踏みつけられ、倍返しの報復をされる。
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