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「……鈴木はさ、なんでそんなに魔王に拘るの。前世がどうでもおまえもう人間だろ。なら人間として生きるのが筋だろうが」
保健室にいく途中の道すがら、俺はずっと心に引っかかっていたことを口にした。
保健室はもうすぐ目の前だ。
返事は期待していなかった。
ただ、一言言いたかっただけだ。
見ていて、ずっとイライラしていたから。
過去にしがみついてどうなる。
魔王だろうが勇者だろうが、もうこの世界では必要とされない存在だ。
なら自由に生きていいじゃないか。
自由に生きればいいじゃないか。
魔王でも勇者でもなく、ただの人間として。
「我は魔王としての生き方しか知らぬ」
なぜかかっと頭に血が上った。
「なんだよそれ」
掴んでいた腕を離して睨み付けると、魔王は……まるで迷子の子供のような顔で俺を見返した。
「他にどう生きたらよいのか分からぬ」
「……なんだよそれ」
一気に気が抜けた。
「人として生きるとはどういうことなのだ。俺は、自分が人であるとは思えぬ」
「……」
その感覚は自分にも覚えがあった。
俺は前世でも人であったけれども、……この手が多くの魔物を、魔族を、魔王を殺した感覚を覚えていた。
それは忘れようとしても忘れられない、魂にこびりついた感覚だ。
「なんで…なんで前世の記憶なんてあるんだろうな」
「アロイス、思い出したのか?」
「違うって。……あんただよ。忘れてていい記憶だろ、それ」
ふっと魔王が笑った。
それは魔王とは思えない、きれいな笑みだった。
「やはり、おまえは信じていたのだな」
「は? なんのことだ?」
「誰も俺が魔王であったということを信じぬ。親ですら、気狂い扱いをする。だが、転校初日、俺と目が合ったおまえだけは、俺を否定しなかった。だからきっとおまえはアロイスなのだ。……記憶がなくとも」
一体、アロイスとは何者だ。
魔王が絶大な信頼を置いている相手なのか。
(そんな名前の側近、記憶にないんだけど…)
有名どころの側近の名前は今でも覚えている。
少なくとも上位魔族の中でも最高位と位置づけられていた四魔候の中にその名は見当たらなかった。
だが、第一の側近にあげるくらいなんだからそれなりの実力者なんだろう。
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