同行者はチャラ男

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 スマホで兄に連絡して迎えに来てもらえばいいだけなのだが、それも業腹である。弟をからかうことを至上の命題とでも考えている節のある兄に、余計なネタを与えて喜ばせたくなどない。  そもそも学園に行くこと自体、気が重かった。  駅舎の脇に咲く桜がきれいだ。  薄桃色の花弁が風にさやさや揺れている。 (帰ろうかな)  帰って両親と花見に行こう。  きっとその方がいい。  桜はきれいだし、天気もいいし。  俺は学園に到着する前からすでにホームシックにかかっていた。おうちが恋しい。  ようやく手に入れた幸せなマイホームから、なんで出てきてしまったんだろうと本気で考えた。  すべて兄の策略だ。  謀略だ。  俺の心は完全にぽっきりと折れた。 (うん、歩いて帰ろう)  財布がないので公共交通機関は使えないが、俺には二本の丈夫な足がある。  前世の旅路では、徒歩での移動もよくあることだったから二、三日かかっても問題ない。  体力もあるし平気平気。  学園まで歩く元気はないが、その何倍も遠い実家への帰路はちっとも苦にならない。いっそ走って帰ろうか。やる気も漲(みなぎ)る。  しかし、そんな俺の出鼻をくじく声が間近であがった。 「ねぇ、キミ、学園に行く子?」  足取りも軽く線路沿いの道を走りだそうとした俺は、つい反射的に振り返ってしまった後、無視すればよかったと後悔した。  ……やけにチャラい男が俺をしっかりその視界に入れて立っていた。  顔だちは整っているが、その全身から軽薄さが滲み出ている。  できればお知り合いになりたくない人種だ。  容姿に自信があり、身なりにも気を配って洒落た格好をし、女にもてるのを隠しもせずに誇っているタイプを俺は苦手としていた。わかっている。もてない男のやっかみだ。僻みだ。でも苦手なものは苦手なのだ。放っておいてくれ。 「だよねだよね? 俺もそうなんだぁ! 一緒に行こうよ」  しかし、俺の拒絶の気配もなんのその、そいつは放っておくどころかさらに距離を詰めてきた。  肯定も否定もしなかったのに、なぜか学園へ行くと決めつけられ、馴れ馴れしく同行を申し出てきたそいつに俺はかなり引いた。なんだコイツ? とにわかに警戒心も湧く。
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