前世は魔王

10/15
前へ
/1282ページ
次へ
 ドッジボール事件の数日後、魔王が行方知れずになった。  帰宅後、しばらくして学校から電話がかかってきたことで俺はそれを知った。 (魔王が行方不明って…)  字面は笑えるけど、状況的には笑えない。  中身は魔王でも、なにしろ見かけはまだ小学三年生の子供である。こっちの世界もまぁまぁそれなりに物騒な事件もあるしな。油断してると奴隷商人に売られるむこうよりはマシだけど。ちなみに俺なんかは親に売られた口である。ぽんぽんガキをこさえるから、口減らしにいらない子供を売っていく。農村によくあるパターンだ。  帰りの会のあと、奴は家に帰らずその姿を消したらしい。  行方を知らないかと聞かれたが、当然、俺は知らなかった。  出会いが悪かったのか、担任はどうやら奴と自分が仲良しだとでも誤解しているようだった。迷惑な話である。  金銭目的の誘拐事件か、あるいはその容姿に目をつけた変質者にでもかどわかされたか、と学校で大騒ぎになっている。  ……と、ラインで近所の主婦らと情報交換した母親が言っていた。  すげえなママネット。情報はぇえ。  俺は仕方なく重い腰をあげた。 「俺、ちょっと出かけてくる」 「え、なんで? もう母さん仕事いく時間なんだけど」 「行けばいいじゃん」 「やだよ。外出たらだめだよ。変質者うろついてるかもしれないのに」 「……わかったわかった、大人しくしてるから。もう行ったら?」 「ほんと?」  疑わしそうな顔をする母親に、俺はできるだけいい子ちゃんの顔をして「ほんとほんと」と頷いた。  母親は看護師をしていて、本日は夜勤なのである。  後ろ髪を引かれるようにして出ていった彼女を見送って、俺はさっそく行動を開始した。
/1282ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16865人が本棚に入れています
本棚に追加