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(ごめんな、母さん)
黒いパーカーのフードをしっかりとかぶり、心の中で謝罪しながら家をでて、なるべく目立たないように近所を散策する。
昔取った杵柄…じゃないけれど、俺は気配を消すのがうまい。
こっそり魔物に近寄って、後ろからぶった切るために身につけたスキルだ。
卑怯というなかれ。
勇者だとて無限の体力があるわけではない。
体力温存のためにはステルス機能やミスディレクションなんかも使うのだ。
井戸端会議をしているおばちゃんグループを横目に、意識を集中する。
「…まだ帰って…」
「怖いわ…」
「警察が…先生も…」
「…心配よね…、だって…」
すれ違うときに耳に入った言葉の断片から情報を得る。
どうやらまだ魔王は見つかっていないらしい。
警察や教師たち、父兄の協力も仰いで一斉捜索をしているという話だ。
このおばちゃん達も声をかけあって近所を見回っている最中のようだ。
俺は研ぎ澄ませた感覚に引っかかった方角にむけ、走りだした。
目指す場所は学校。
特殊能力なのかなんなのか、集中することで俺には魔王の居場所がわかった。
――見た瞬間、転校生が魔王であると確信したように。
気にしないようにしていても、自然と意識がそちらへいく。
本当に奴の存在は厄介だった。
(…勇者だったころの名残なんかなぁ)
こんな限定的な特殊能力などいらないが、……今だけは便利に使わせてもらう。
学校につくと、思ったほど人の気配はなかった。
あらかた校内を探し尽した後だろう。
ただ、職員室に人影はあるし、駐車場にはパトカーと警察官の姿も見える。
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