前世は魔王

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(大事になってんなぁ)  遠目にそれらを確認した俺は、さりげなさを装い校門をすり抜けた。  しかし、門の近くに立っていた男性教師に呼び止められる。 「どうしたんだ? 今日は出歩くなと連絡がいっているはずだぞ」 「すみません! 忘れ物しちゃって…」  しゅんと大げさに肩を落とすと、教師は苦笑いした。 「仕方ないな。早くいって取ってこい」 「ありがとうございます!」  小学生らしく元気にお返事し、お言葉に甘えて校舎の方へ走って向かう。  背中に行き先を見守る教師の視線を感じたので、一旦、昇降口から校舎に入ったあと、靴を持って裸足で廊下を走り、渡り廊下で靴を履いて再び外に出た。  幸い廊下で他の教師に会うことはなかったので、下手な言い訳をすることもなく目的の場所までたどり着くことができた。  学校の隅にある、飼育動物小屋の前に俺は立った。  細かい金網のむこうではウサギが数羽、のんきに寝そべっている。平和でなごむ光景だ。  飼育しているといっても、食うために飼っているわけじゃない。  情操教育の一環らしい。  俺にとっては謎の情操教育。  ……食わないのにウサギを飼う意味がてんでわからなかった小学一年生の頃。うん、懐かしい。あのウサギはいつ食べるのかと母親に聞いて驚かれたっけ…。  異世界常識非常識。  ウサギは食用ではなく可愛がるために飼うものだ。と、俺は学んだ。  前世で、猫や犬を飼う人間はいたけれど、ウサギはいなかったんだよ。  ウサギは食料だったからな。焼いても煮込んでもウサギは美味(うま)い。実は前世の俺の好物だったりする。  じゅるりと涎がでそうになったが、そこは堪(こら)える。  情操教育情操教育。  ウサギは食っちゃダメ。  心で念じて、俺は飼育小屋の扉の側に回り込んだ。
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