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飼育小屋は二部屋に仕切られていて、裏側に出入り口があり、手前の部屋は餌やら掃除道具やらウサギの世話に必要な様々なものが置かれ、その奥のもう一つのドアでウサギ部屋と繋がっていた。
飼育小屋の出入り口のドアは、中からも外からも手動で鍵が開け閉めできるようになっている。
俺は、ひとつ深呼吸をしてからカチリと鍵をあけて古びたドアを開けた。
暗い部屋の中に夕暮れ時の光が差し込む。
まず感じたのは、つんとした動物臭と湿り気のある空気。
嗅覚の次は、視覚。
雑多なものが置かれた狭いスペース。
腐食しかけた金属製の棚。
……そして、地面に蹲(うずくま)った小さな塊。
それを見つけた瞬間、顔が険しくしかめられるのが自分でもわかった。
――裸の魔王が後ろ手に縛られて地面に転がっていた。
かろうじてパンツと靴下は履いているが、他はなに一つ身に着けてない。
前世の確執はあれど、子供の姿である今の魔王を無様と嗤う気にはとてもなれなかった。
むき出しの細い肩が震えているのに気づき、俺はすぐさま駆け寄ってその腕にからまる布を解いた。奴は自分のズボンで縛られていた。
「大丈夫か?」
しかし、心配して声をかけた俺を、あろうことか奴は自由になった腕で突き飛ばした。そして、
「もれる!」
一声叫んで、裸のまま外に飛び出していった。まるで弾丸のように。
俺はあっけにとられ、一人取り残された小屋で手に奴のズボンを持ったままその後ろ姿を見送った。
「…もれる?」
俺は自分の呟きにはっと我に返り、散らばっていた奴の服をかき集めて小屋を出ると、奴の目指した先に見当をつけてあとを追った。
……予想に違わず奴は一番近い校舎のトイレにいた。
俺が到着するまでに出すもの出して、すっきりした顔をしている。相当せっぱつまっていたらしい。
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