前世は魔王

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 俺が来なかったらどうする気だったのやら…。呆れる。  膀胱炎になるぞ。  あれはかなり痛い。との看護師である母親の言だ。 「そんなことばっかり言ってるとそのうち病気になるし、死ぬぞ」  今は人間なんだから。自覚しろ。  一応親切にも忠告めいたことを口にする俺。  いいやつ。さすが元勇者。 「心配無用だ。魔王は死なぬ。何度でも復活する」  いや、状況的には確かにそうかもしれないけど。  復活ってより転生だから、俺たち。  ――なんて言えたら苦労しない。  俺は石頭な魔王の説得を早々に諦めた。 「…で、どうしてあんな状況に?」 「いつも追いかけまわしてくる奴らの靴にウサギの糞をいれてやったら、裸にむかれて閉じ込められた」  仕返しの方法が魔王らしく陰湿で容赦ない。 「糞に気づいた奴らの騒ぎようは滑稽だったわ。愚かな人間どもめ」  ウサギの糞はけっこう臭いんだぞ。  それは悲鳴の一つもあげるだろ。  しかし魔王はさらに悪い顔をしてせせら笑った。 「身の程知らずにも突っ込んでこようものなら食いちぎってやるつもりでおったのに」  ……「何を」なんて訊きませんよ。  その陰惨な目つきを見ればわかりますから。  さすが魔王サマ、発想がバイオレンス。  そもそも小学生が小学生にどうこうなんて普通ないからね?  ここは平和な日本なの。魔族が戯れに人間の女や男を凌辱しちゃったりするあっちの世界じゃないの。 「あやつら服を脱がすだけで満足して出ていきおった。俺を犯す度胸もない腰抜けどもめ」  パンツ一丁で粗相をしそうになっていた魔王に凄まれてもいまいち迫力に欠ける。 「……いつもこてんぱんにやられてるくせに」 「なにか言ったか?」 「いいえ何も」  俺と魔王はそこで別れて別々に帰った。  校門で「気をつけて早く帰れよ~!」と声をかけてくる教師に「はーい!」と何食わぬ顔をして笑顔で手を振る俺は、もしかしたら役者になれるかもしれない。  翌日、魔王行方不明事件のことで教室内は騒がしかったが、渦中の人であるはずの奴は他人事のような顔をしていた。  案外奴も役者むきかもしれない。
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