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俺は自分のハンカチで素早く傷口を縛ると、魔王の腕を引っ張って教室から連れ出した。
ドッジボール事件からはじまって、こんなシチュエーションもすでに何度目かになっている。
魔王はケガを気にしない。
自分が傷つくことに無頓着だ。
痛くないのか、とかつて尋ねた俺に奴は「痛いに決まっておる」と答えたので痛覚はあるようだ。
なのに気にしない。
魔王はやっぱり頭がおかしい。
「少しは気をつけろよ。見てる方がいてぇーんだよ」
『見ている方が痛いの。我慢しないで。痛いときにはちゃんと言って』
母親は、俺に根気よくそう諭した。
ケガをしても気にしなかった幼い俺に、何度も何度もそう言った。
ケガを気にしていたら、それが隙になって命取りになる。そういう世界にいた。
傷に対して鈍麻であらねば、生き残れなかった。
あの世界では、それが正しかったのだ。
ささやかな傷を気にして致命傷を負うことは愚かな行為だった。
――自分と魔王は違う。
そう思っていても、どうしても重ね合わせてしまう部分はあった。
魔王はそもそも自己再生力が桁外れで、いくら切ってもすぐにその傷は治っていた。
ようやく刃がその体に届いても、あっという間に傷口は塞がる。……あの絶望的な徒労感はちょっと忘れられない。
それでも切ることができるだけマシだったのだ。
普通の剣では、太刀傷一つ与えることも不可能だったのがあの世界の魔王だった。
それに比べて転生した魔王は無害で、弱い。
尊大な態度はともかく、すぐケガをするし、非力だし、上級生や同級生から相変わらずこづきまわされている。
ただの子供だ。
ちっぽけでひ弱な、――ただの人間だ。
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