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去年の終わりくらいから、魔王はちょくちょく授業を抜け出すようになった。
一番初めにいなくなったとき、ついうっかり見つけてしまったのが運の尽き。
放っておけばよかったのに、教師のオロオロする姿に同情したのが悪かった。
図書室の隅っこで猫みたいに丸くなって寝ていた奴を教室に連れ戻した俺はたいそう感謝されたが、――その後の仕事が増えただけでまったく割に合っていない。
『おーい魔王係りー、魔王がまた六年に連れていかれたぞぉ』
『佐藤、すまんがまお…じゃなくて鈴木を探してきてくれないか?』
『魔王が階段から落ちたってー』
『佐藤は鈴木と組んでくれ』
なんだかんだで駆り出され、ペアとして扱われる毎日だった。
魔王もなぜか俺の言葉には耳を傾けるので状況は一向に変わらない。
悪循環だ。
完全に、「魔王のことは佐藤に任せておけ」、みたいな流れになってしまっている。
おかしいな。
……どうしてこうなった。
(奴の態度も悪いんだよな)
俺とは話をするのに、他の奴らには冷淡だ。
無視をするか、見下した態度をとるか、嘲(あざけ)るか。
打ち解けようという気持ちがまったく見られない。
(――人間が嫌いなのかもしれないな)
なんとなく、最近はそう思い始めている。
実際のところ魔族の全員が全員、人間を憎んでいたわけではない。
中には友好的な奴もいたし、中立を守っている種族もあった。
人間に興味を持ち、変なアプローチをしてくる奴だっていた。
だが魔王は、好悪とは違う次元で人間の存在自体を許しがたく思っているようだった。
俺は、奴にとっていまだに同胞だから、一応存在を認められているけれど……。
(もし万が一にも正体がバレたらしゃれになんねぇな)
勝手に誤解している奴が悪いので罪悪感などは湧かないものの、消えないわだかまりみたいなものがある。
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