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くっそう。猫がネズミをいたぶる動きになってんな。
最初の一、二撃はともかく、今は明らかにこちらの反撃を誘う動きだった。こいつ、戦い慣れてる。普通の高校生の動きじゃない。そっちこそ何モンだよ。ただの喧嘩慣れした不良じゃねーだろ。
(どーする…?)
逃げ道への動線は塞がれている。
赤髪が出入り口付近から離れないからこそ、これまでの攻撃をなんとか躱(かわ)すことができた。
だが逆に言えば、……この部屋を出ていくためには赤髪とやり合わなければならない。
そしてそれは絶対に避けたい悪手だ。
(わざと一発食らうか?)
誘いにのって殴られれば、相手は納得するだろう。
多少痛い思いはするが、……それこそ殺されるわけじゃない。たかが子供同士の喧嘩だ。
だが――、
『簡単に傷つくな』
兄の怒った顔が頭に浮かんでなんとなく躊躇してしまう。
あれからまだ一週間も経っていない。さすがに今度は噛みつかれるだけじゃ済まない気がする。
(あ、……ヤなこと思い出した)
兄の怒り顔と一緒に浮かんだ嫌な記憶は、すぐさま抹消、消去、デリート処理した。うん、あれはノーカンだノーカン。口じゃなくて歯だったし。口と口はくっついてないし。ぎりぎりセーフだ。あんなんが今世のファーストキスとか、ないない。しかも相手が兄じゃ罰ゲームにしたってひどすぎる。
それよりも今はどうやってこの場を切り抜けるか、だ。
部屋の間取りは自室と同じ。
俺の背後には窓がある。
人一人が潜り抜けるには十分な大きさだ。
そして、――ここは二階。
ならば……、
俺はタイミングを見計らい、だっと身を翻してドア以外の唯一の脱出口である窓に飛びついてそこを開け放った。
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