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――たぶん無意識に気を許しかけていたんだろう。
出会い頭の無邪気な笑顔に。
魔王としての生き方しか知らないと言った心細そうな目に。
人として生きるとはどういうことかと問うた小さな声に。
一人ぽっちで丸くなって眠るその姿に。
きっと絆(ほだ)されかけていた。
――だから油断していたのだ。
* * *
その日、俺たちのクラスは体育の時間に、体力測定の千メートル走練習として校庭のトラックを走っていた。
俺はちょうど集団になった真ん中よりもちょっと前あたりの位置をキープしつつ、隣で肩を並べるウッチーとだらだらと喋りながら足を動かしていた。このくらいのスピードなら話していても余裕だ。
「細いくせに昔っから体力あるよなぁカッキーは、全然、息乱れてねぇし」
「そりゃもう鍛えてますから」
「なに? スポーツ選手とか実はこっそり目指しちゃってんの?」
「いや単なる趣味」
「シュミ渋いな。なんかスポーツやればいいのに」
「んーまぁなぁ…」
「野球でもサッカーでもさ。バスケ…はちょっと背が足んないか?」
「なんだよ俺がチビみたいにゆーなよ」
「ま、普通だな」
「ふつうふつう」
普通が一番。
別に興味のあるスポーツもないし、俺はのんびり生きていければそれでいい。
ガツガツしたくない。
「カッキーは頭はともかく運動神経いいんだから、もったいないって俺は思うけどなぁ。なんかやればいいのに」
「頭はともかくとはなんだよ。俺は頭の出来も普通だぞ。平凡万歳」
「でた。カッキーの平凡信仰!」
ウッチーがなぜか微妙な視線を寄越してくる。
「……もうそれやめたら?」
「え、なんで」
「こっちこそなんでだよ。平凡のどこがいいの」
「…………………響き?」
「よくねーよ。はっきりいって俺から言わせると、おまえが平凡を名乗るなって感じだからな」
「まぁ過去は忘れたまえよ」
「忘れられっか。人の頭、剣で思い切りぶっ叩きやがって」
……そうだった。劇の魔王役こいつだった。
「あんときは悪かったな」
「それはもういいんだよ。……別にんなことむしかえしたかったわけじゃねぇし」
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