勇者は平凡

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 結局いつものパターンで、俺がぶっ倒れた魔王を背中におぶって保健室までえっちらおっちら運ぶ羽目になった。  もうお約束すぎて溜め息もでない。むしろ俺が倒れたい。  こっちだって千メートル走をもう終盤まで走っていたんだけど、そこんとこ先生もクラスの皆もわかってんのかね?  そしてその元凶たる魔王サマもね。  ここは前々から思っていたことをビシッと言ってやる。言ってやるとも。 「おまえもうほんともうちょっと体力つけてその貧弱さをなんとかしてくれ」  最強魔王は、転生したら最弱人間になった。  それはもういい。  俺だってもう昔の俺じゃない。  だけど、人様に迷惑はかけんな。  最弱は最弱なりに努力しろよ。 (だいたいなんで俺が面倒みないといけないんだか…)  前世で殺したからって理由は却下だ。同時に俺も死んでいる。こいつに心的借金はねぇ。 「もっとちゃんと食べてさぁ」  俺の苦言に、背中で魔王がぼそぼそ答える。 「魚も肉も好かぬ」 「じゃあ米」 「ねちゃねちゃして嫌だ」 「パンは」 「口がぱさつく」 「野菜」 「臭い」  このヤロウ。 「偏食しすぎ。何食べて生きてんだよ」  霞か。魔王は転生して仙人にでもなるつもりか。  しばし黙考していたらしい魔王が、ぽそりと呟く。 「……麩菓子は好きだ」 「ぶはっ…なにそのチョイス!」  麩菓子って。 「鯉かよ!」  魔王の好物が麩菓子。  笑える。爆笑もんだ。 「あれは食感が秀逸だ。さくっとしてふわっとしてしかも甘い。甘味はよいな」  麩菓子をもそもそ食べている魔王を想像したら、腹が痙攣した。 「こら笑っておらずにきちんと歩かぬか。ふらついて危ないであろう」 「だって、おまえが笑わすから」 「笑わしてなどおらぬわ」  どこか拗ねた魔王の口調がますます笑いを誘う。
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