勇者は平凡

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「ダメだ。ツボった。止まんねぇ」  腹痛ぇ。たまらん。  それでも根性で保健室まで魔王を背負って歩き切った俺はさすが元勇者だと思う。  誰も褒めてくれないので自分で意図して褒める。  これはもう癖のようなものだ。  俺は前世のときから自画自賛してモチベーションを保ってきた。 『勇者だから助けて当然』 『勇者だから強くてあたりまえ』 『勇者だから…』 『勇者は…』  枕詞に勇者さえつければ、俺は無敵だと思っている奴らは大勢いた。  俺の敵は魔族だけではなかった。  共に戦う仲間の中にすら、俺の敵はいたのだ。  そして大衆もまた、必ずしも味方ではなかった。  『勇者だから』はすぐに『勇者なのに』に置き換えられた。  驚くほど、安易に簡単に、――そして残酷に。  失敗すれば、期待と賛美は瞬く間に誹謗中傷にその姿を変える。  家が壊れた、人が死んだ、作物が荒らされた、橋が落ちた、娘がさらわれた。  すべて魔族や魔物がなしたことだ。  だが、責められるのは間に合わなかった俺だった。  あそこはここよりももっと不条理で理不尽な世界だった。  もちろん、この世界でだって同じことは起きうるだろう。  ――だが、責められるのは少なくとも俺じゃない。  「普通」である限り、無駄に矢面に立たされて石を投げられたりもしないのだ。  守った相手から、石を投げられずに済む。  俺が望んでいるのは、そんなちっぱけな欺瞞に満ちた生き方に過ぎない。  ……前世であれだけ頑張ったんだから、そのくらい叶ったっていいんじゃないかと思っている。
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