前世は魔王

2/15
16840人が本棚に入れています
本棚に追加
/1282ページ
 俺の前世は魔王だった。  ……なんて真顔で宣言した転校生の自称魔王(仮)は、今世では速攻で「中二病」のレッテルを張られた。  ほらみろ、いわんこっちゃない。  現代社会に生きる処世術をおまえは今まで学んでこなかったのか、と俺は奴を遠巻きにするクラスメイトたちをさらに遠巻きに眺めていた。  変人やら中二病のレッテルを張られたくなければ、周りに合わせて足並みそろえて目立たず騒がず社会に溶け込んで生きるべきだ。もちろん俺は無用な騒ぎや諍いとは今世こそ無縁でありたいので「前世は勇者でしたー」なんて冗談でも言ったことはない。  もっとも言ったところで誰も信じやしないだろうが。  ――奴の発言が周囲にはまったく信じられなかったように。  案の定、魔王鈴木は、完全にクラスで浮いた存在になった。  そもそも、俺たちはまだ小学生だ。  しかも低学年。  小学三年生である。  つまりガキだ。  前世で成人だった俺たちが(いや魔王の年齢は知らないが)、そんなガキどもの中に混じるだけでもいろいろキツイ。  大剣振り回していた俺が、ドッジボールとかしちゃうんだぜ?  ははは、笑える。  ちなみに勉強チートはない。  九九とか一から覚えた。前の世界に九九なかったしな。  漢字は苦手だ。  前世の言語を覚えているので、日本語との文法や語彙の違いに慣れるまでは苦労した。幼い頃は前世の言葉でしゃべっていたが、親に心配されてそれは封じた。すべてが過去のことだと芯から納得するのに時間はかかったけれど、幸いにして前世と違って親に恵まれたので乗り越えることができた。  俺は転生したのだ。  前世は、忘れる。  それでいい。  ……ようやくそう納得できたのに、なんで「魔王」なんかが俺の前に現れるんだ。
/1282ページ

最初のコメントを投稿しよう!