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「君は……この島に何も感じないのかい?」
俺は兄の問いにすぐさま頭から魔王を追い出した。油断するとつい思考がそっちへ行くから厄介だ。
「……感じねぇな」
「そうか…、仕方ないね。今の君はびっくりするくらい無能になっちゃってるからね」
「さらりと無能呼ばわりか」
「もともと鈍いけどね」
「……」
これはやはり喧嘩を売られているのだろうか。やはりいつにも増して舌鋒(ぜっぽう)鋭く刺々しい。
もうさっさとメシを食って退散しよう。そうしよう。俺の基本戦術は逃走一択である。逃げるが勝ちと言うではないか。
「もしかしたら根津も、スカウトではなく自らの意思でここに居るのかもしれない。本人に確認してみないことにはなんとも言えないが…」
俺はそれには返事をせずに、サンドイッチセットを無心に食べた。
残せばもったいないオバケが出るので全部腹に収めるためにせっせと口に詰め込み、リス並みに顎を動かして咀嚼する。
兄もそんな俺をどう思ったか知らないが、食事を再開した。
俺が食べきったタイミングで、兄が紙袋からカップを取り出してそれを俺の前に置いた。
なんだと視線で問えば、「コーヒーだよ」と短く返事がかえる。
そういえば、家では兄がよく飲み物を入れてくれていた。妙なところで親切というか甲斐甲斐しさを発揮するのだこの兄は。
飲み物の種類は様々で、その時によって違った。
ココアだったりホットミルクだったり、緑茶やほうじ茶だったり。
そして、いつもタイミングが絶妙に良かった。
「喉がかわいたな」とか「なにか温かい飲み物が欲しいな」…なんてふと思った時に、さりげなく出されるのだ。
蓋つきのテイクアウト用カップに入ったコーヒーは、手に取るとまだ温かかった。
炭酸飲料は苦手だが、コーヒーなら飲めるし、わりと好きだ。
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