兄の虚実

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 弟の心臓についても同様だ。  学園島に来てから心臓の調子は良好な状態が保たれている。  もう一方の手で、薄いシャツ越しに心臓の鼓動を確かめると、そこはとくとくと規則正しく力強い命の拍動を刻んでいた。  口中に忍ばせた舌先や唾液から『生』の気もしっかりと伝わってくる。  正常に循環している気の流れに、渉は安堵した。  海の一件の予後を診たくて部屋に来るように言っても、弟はのらくらとはぐらかすばかりで一向に足を向けようとしない。  しかも、上級生が来たら同室者に気をつかわせて迷惑がかかるから、自分の寮部屋には絶対に来るなと言い張るので、こちらから訪ねることもできない。可愛げの欠片もないひどい弟である。  診たくても診ることのできない状況に、渉も鬱憤が溜まっていた。今回、このような強硬手段に出た理由の一つでもある。  傷はともかく、弟の体調に問題はなかった。  自然に囲まれた学園島の環境が体にあっているのか、あるいはやはり『力』の影響が及ぼした変化か。島外にいた時よりも明らかに弟の体内の生気は増した。継続的に良い状態が保たれている。  しかし、それは安心材料でもあるが、同時に不安材料でもあった。  渉も学園島の秘密をすべて知っているわけではない。  だが、弟よりは深く関わりを持っているし、まだ明かしていない情報も手中にある。 『一体この島は…、この学園はなんなんだ? ……なんで俺をこの島に呼び寄せた? 前に言ってたよな? 転生者は魔王討伐関係者がほとんどだって』  投げかけられた弟の質問を、別の質問にすり替えたのは意図的なものだった。  弟にどこまで明かし、共有するべきか、渉の中には迷いと躊躇いがあった。
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