兄の虚実

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 線引きをどこにするべきか測りかねていた。今はまだ、学園島については目隠しをして遠ざけたいという気持ちの方が強い。  先ほど明かしたカラクリなどは、まだほんの触りに過ぎない情報だ。  自力で気付こうと思えば気付ける範囲のことである。  ……弟はまったく気づいていなかったようであるし、そもそも『宿題』について考えていたかどうかも疑わしいが。  厳密に云えば、この学園島に集う転生者は魔王討伐参加者に限定されているわけではなかった。  つまり、この世界に転生した者は、魔王戦を終局まで共に戦った仲間だけに限らず、実はもっと広範囲に渡る。だから、渉自身もすべての転生者を把握できていないのが実情だ。  ……しかし、全部を知らずとも、弟と縁の深い転生者を渉は少なくとも他に二人知っていた。 (いつまで、あの方たちに君の存在を隠しおおせるか……)  弟は非協力的だし、あちらは百戦錬磨の強者(つわもの)だし、渉にとってもそれはなかなか骨が折れる案件だった。  今のところ接触してくる様子もなく、探りを入れられる気配もないので上手く誤魔化せていると思いたいのだが、  ただ――…… (あなたの引きの強さは侮れませんからね…)  こちらが与り知らぬところでどこでどう何を引っ掛けていてもおかしくはないところが彼の危ういところなのだ。なにしろ前科が呆れるくらい山のようにあった。  現に、尊師……彼の指すところの「クソじじい」との接触が良い例である。  根津は中等部時代からそれなりに名の知られた生徒だったが、まさか彼が王宮魔術師だとは自分を含め昔の仲間は誰一人として気づいてはいなかったはずだ。  それに――、  あの西九条(にしくじょう)という生徒。
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