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奴は魔王だ。
前世とは、年も違うし顔も違うし髪色だって違う。
前世のあいつは紫紺の髪をしていた。
今世のあいつは黒髪だ。
ただ、共通する部分もある。
……美形といって差し支えないほど整った容貌のくせに悪人面なところが、まったく同じなのだ。
顔だちは違うのに、そこだけ共通って……。
美人なんだけど、いかにもなにか悪いことを企んでいそうな顔で親しみがまったく持てない。
いや世界征服とか企んでいるんだから、それはある意味奴らしい顔といえば顔なのだろうけど。
少なくとも友達になりたい人相ではなかった。
ただ、数年もたてばとんでもない色男に成長するだろう片鱗は垣間見える。
実際、前世の魔王はそうだった。
魔族はもちろん人間の女さえ自分から望んで奴に身を投げた、なんて噂も事欠かないくらい艶聞の方でも名が知れ渡っていた。
俺も勇者だったからそれなりにモテたけど、そっち方面では完璧に負けていたと思う。……べつに悔しくなんかないんだからね。とツンデレってみる。
魔王が転校してきて以来、俺はなるべく関わり合いにならないように奴を避けた。
話しかけられそうになるたびにそそくさと知らぬふりして逃げていたら、そのうちそんなこともなくなった。見るからにプライドの高そうな奴だから、さっさと見切りをつけたのだろう。
このままただの一クラスメイトとして疎遠になってしまえばそれが一番だ。
……そう思っていたのだが、ある日、俺は見つけてしまった。
奴の上靴がゴミ箱に捨てられているのを。
仕方がない。その日、俺はゴミ当番だったのだ。妙なものを見つけてしまったのは、不可抗力ってやつだ。
なんで靴が捨てられてんの? と素直にそれを拾い上げた俺だったが、持ち主の名前を見て顔を顰めた。
鈴木。
魔王の上靴だった。
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