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まず第一に、血のつながらない従姉にもその母親である伯母にも、翔はあまりよい印象を抱いていない。
しかし、親戚付き合いというものは、好き嫌いよりも義理が優先されるし、義理を欠けば後の禍根に繋がったりもする。嫌だからといって招待された結婚式をお断りした場合、この先なにかあるたびにねちねちと言われ続けることは必定だ。……つまり伯母というのはそういうタイプの人間だった。
結婚式への出席だけでも気鬱になるのに、それに加えて関西地方まで出向くということは、当然、学園島からの道中を兄と共に過ごすということだった。
おまけに前泊なので、宿の部屋も一緒である。
電話で母から兄とツインルームだと聞かされた翔は、つい「シングルがいい」とチェンジを口にしてしまったが、ホテルの予約に関しては伯母が手配しているとかで変更は難しいと言われてしまった。母親を困らせたくなかった翔は、すぐに前言撤回した。
とりあえず、一晩だけの辛抱である。と、自分に言い聞かせて。
そんな成り行きの末、結婚式前日、翔は兄とともに西の地へ向かうこととなったのである。
「翔は窓際に座るといいよ」
新幹線の座席の奥に笑顔で追いやられた翔は、しぶしぶ兄の指示に従った。……できれば通路側が良かったのだが仕方ない。兄の笑顔には有無を言わせぬものが含まれていた。べつにどうしても通路側でなければ嫌なわけでもなかった。ただ、いちいち席を立つのに兄の前を通るのが億劫だっただけである。
そもそも、翔はまだ兄に対して鬱屈を抱えていた。
面談室のことももちろんそうだが、それ以上に、兄は翔の首にとんでもないことをしでかしてくれたのである。
(……キスマークとか、ホントなに考えてんだかわかんねー)
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