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 記憶が戻った。姉から相談を受けたのは8年前、停電のあった夏の夜だ。「梨田たちを殺したい」   姉の順子は結婚して渡辺に姓が変わったが、度々実家に帰省していた。     10年前、父親の山崎忠邦は投資詐欺に遭い、首吊り自殺した。梨田、藤原、神澤の3人の巧妙な罠にハマった。   山崎自身も何百回と3人を殺そうと思っていた。 しかし、家庭があった。  2人のもとに救世主が現れたのは7年前の6月だった。 順子は派遣会社の営業マンだったが依願退職し、K街にあるハローワークで、相談員として働いていた。安田という青年が、『梨田の奴殺したい』と相談ブースに現れたときは、死神に感謝したものだ。  安田は印刷会社で毎日の様にパワハラに遭った。  殴られることなど日常茶飯事だ。順子は知恵と金を使い、安田をクライムゾーンに転職させた。   クライムゾーンは藤原の設立した会社だ。  安田はイジメられ安い顔なのか、クライムゾーンでも毎日の様に、先輩たちからネチネチやられた。 『安田の安は、安価の安だろ?』『生きてるだけで感謝しなさい』  『もう死にたい』と、相談に姉に愚痴を溢したことを聞いたときは、ほくそえんだものだ。  『それくらいのことで死ぬんだったら、私たちなんて何回自殺するのよね?安い人間よ』   姉はゴキブリを、ライターで炙りながら言っていた。   3人の死体が発見されたことを知れば、当然安田は姉を疑う。そう危惧した山崎は、産業カウンセラーとして安田に近づき、ホロホロにしたところで製鉄会社を紹介した。   しかし、気になることがある。梨田と藤原を殺したのは僕と姉だけど、神澤を殺したのは一体誰だ?
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