魔性

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魔性

 K駅一帯は戦場と化した。ヒュイコブラが高層ビルへと向かう。屋根がパックリと割れたように開いて、黒い筒が突き出ていた。   ヒュイコブラがホバリングをはじめる。  「マズイ!ロケット砲だ!」   小林が叫ぶ。砲声が轟き、放射状に黒煙が散った。次々に破裂するロケット砲の何発目かが、ローターを吹き飛ばす。  「ぐうっ!」   龍門が呻くと同時に、ヘリが大きく揺れる。   爆風の威力に俺は気を失った。  目を覚ますと奈緒が俺の上で腰を振っていた。  「アァ、アァ…イイッ!」  「ハァ、ハァ、ハァ…俺、今、半分死んでたよ」  「私には相手を気絶させる力があるんだ」   奈緒とは閉鎖病棟で知り合った。彼女は父親からヒドイ虐待を受け、リストカットの常習者だった。 濡れた音に思わず放出しそうになる。  オーディオから、尾崎豊の【シェリー】が微かに流れる。  《シェリー、俺はまだ馬鹿と呼ばれているか~?》 2人は同時に果てた。微睡みのなか、汽笛が聞こえた。窓の外には葡萄色の本牧エリアが広がる。   腕時計を覗く。午後11時になるところだ。   2か月前に堀田を殺し、奈緒の元に身を寄せていた。奈緒は本牧警察署の刑事だ。 「織田君ってさ、今、何の仕事しているの?」   ブラをしながら奈緒が言った。 「織田って誰だ?」  「君のことでしょう、大丈夫?」    雪がチラチラ舞っていた。電線がヒュンヒュン鳴いている。   記憶喪失か?まさか、銃で頭を撃たれたとか?  「おいおい、俺は葛城烈だぞ?」   「カツラギレツ?キャハハハ、誰それ?」   頭を銃でブチ抜いた父親の姿が蘇る。   胸の奥で蠢く感情を消去した。    俺は小さく顎を引いた。そして、苦笑い。  織田か、それはいい。別人として生きようか。 「無職だよ。数年前に教師をクビになってな」  「へぇ、あの優秀な殺し屋がねぇ…」   織田ってのは殺し屋だったのか。ゴルゴとか、名探偵コナンに出てくる黒の組織を思い出す。 「冗談だよな?君は人なんか殺せない」  「出来るなら、冗談にしたいわよ」   そのとき、窓の外に気配を感じた。
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