Scene1 銃弾《ブレット》なんてさようなら

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             ***  くたびれたビルに挟まれた、薄暗い路地。  ここは移民たちの居住区であるらしい。  そこかしにゴミや段ボールが堆積しているせいで、車の通れるスペースはかなり狭く、ゆっくりとしか進めない。  頭上には幾本ものひもが張られ、黄ばんだ洗濯物がぶら下がっている。  バシャっという水音が聞こえてきた。  誰かが窓から排水でも捨てたのだろう。  衛生観念の欠落した裏通りは――不穏であった。  立ちこめる悪臭も、屋根がなければ防ぎようがない。  焦燥に駆られるが、スピードも出せない。  滅入る気持ちを少しでも紛らわせようと、ノエルはセンターパネルに手を伸ばした。  EMラジオの牧歌さを取り戻したかったのである。  だが、そのとき――  手がボタンに触れる前に、ラジオがひとりでに起動した。  ミカたんの可愛らしい声が、車載スピーカーから爆音(・・)であふれ出した。 『はっじまぁるよ~~~~~!!』  静かな路地に、響き渡るミカたん。  途端――銃撃音があたりをつんざいた。  ノエルの頭上へ粉砕されたガラス片が降ってくる。  「あ?」  ノエルの口から気の抜けた声が漏れる。  ノエルはアクセルを踏み込んだ。  間一髪、ガラス片は後部座席を引き裂くに留まった。  しかし銃撃音は鳴り止まず、ノエルの頭上には次々とガラス片が降り注ぐ。  スピードを上げて突っ切りたいのだが、散乱したゴミのためにそれができない。ハンドルとアクセルで、なんとか自分の身だけは回避していくノエル。  ガラス片に刻まれて、光沢を失っていくビビッドレッド。  頭上からは男たちの怒声が聞こえてくる。  だが声も銃撃も、ノエルに向けられたものではなかった。  左側のビルの4階付近で揉め(トラブル)があり、そのとばっちりに会っているようだ。 「だぁああああ! 屋根ええええええ!」  ノエルの悲痛な叫びは、しかし銃撃音にかき消される。  EMラジオからは、軽快なジャズが流れっ放しになっていた。  ビルは内部がつながっているのか、ガラスはのべつまくなし降ってくる……
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