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ようやく路地の出口が見えてきた。
表通りは日当たりも良いようで、ここからは輝いて見える。
「あと少し!」
出口付近はゴミも少なく、思い切りアクセルを踏めそうだ。
ノエルがそう思ったとき、4階の窓から何かが飛び出した。
逆光でシルエットしかわからないが、人影のようにも見える。
その影は――ノエルに向けて発砲してきた。
パスンっ!
軽い銃声に、ノエルは思わずブレーキを踏んだ。
金切り声を上げて急停車する赤い車。
「っ……!」
弾は当たっていない。だが――
ノエルはハッとして空を見上げた。
ビルに挟まれた細長い空は、青々としている。
その中を、洗濯ひもがぶらぶらと揺らめいていた。
どうん!
騒音とともに車が激しく揺れる。
「ひゃっ――ああっ!」
女の声がして、またも車が揺れた。
ノエルが振り返ると、後部座席は大量の洗濯物に埋め尽くされていた。
その洗濯物の中から、2本の足が生えている。
突き出たそのあでやかな足は、やはり女のようである。
「だ、大丈夫か?」
呆気に取られながらも、ノエルが声をかける。
しかしそんなノエルの鼻先に、洗濯物から生えてきた拳銃が突きつけられた。
「助けてくれる?」
顔は埋もれているが、その眼光はまるで闇夜の猫のように、洗濯物の奥からこちらを見据えているのがわかった。
「それはお前の願いか?」
ノエルは、何か場違いにも思える言葉を返していた。
しかし女のほうも平然と、
「そうね、わたしの心からのお願い、かな。」
と返した。
女がそう言うと――銃弾がボンネットに穴を開けた。
ビルから頭を出した男たちが、短機関銃を手に銃弾の雨を降らせている。
女は埋もれていたもう一方の拳銃を、男たちへ向けて撃つ。
ノエルはアクセルを踏み込んで、まぶしい表通りへと飛び出していった。
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