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「あ~、きっもちぃい~!」
後部座席に陣取った女は、右手でノエル、左手で追跡車に狙いを定める二挺拳銃スタイルで、風に髪をなびかせていた。
しかしノエルと違い、女のしなやかな髪は乱れたりしなかった。
どんな強風にあおられても、さらさらと受流してゆく。
ズダダダダと後方から銃声が響いて、リアバンパーが剥落していった。
すでにテールランプは破壊され、バッグドアも取れかかっている。
「もっとスピードでないの?」
後部座席に立っている女がぼやいたが、それはきっと逃げるためではなく、もっと風に当たるためだろう。
「あんた、いったい何やらかしたんだ?」
「ノン、ノン。」
女は銃を突きつけたまま、人差し指を左右に動かした。
「わたしはアンナっていうの。アンナ・E《エマ》・クロニクル。」
「そうかいっ!」
ノエルがおもむろにハンドルを切る。
いままで走っていた車線で手榴弾が爆散した。
「あなたは?」
「あ?」
「名前。」
「おれはノエルだ。ノエル・グロリア。」
「あら、素敵な名前ね。」
アンナの銃弾が追手の擲弾筒を叩き落とす。
「あなたって不愛想な人?」
「銃を向けられて、愛想もなにもねえだろ。」
「あははは、そうよねっ」
などと悠長に笑っている。
追手はまだ5台ほど続いている。
外見は黒塗りの高級車だが、すべてアーマード化された装甲車となっていた。
タイヤもフロントガラスも、アンナの銃弾では歯が立たなかった。
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