Scene1 銃弾《ブレット》なんてさようなら

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             *** 「あ~、きっもちぃい~!」  後部座席に陣取った女は、右手でノエル、左手で追跡車に狙いを定める二挺拳銃スタイルで、風に髪をなびかせていた。  しかしノエルと違い、女のしなやかな髪は乱れたりしなかった。  どんな強風にあおられても、さらさらと受流してゆく。  ズダダダダと後方から銃声が響いて、リアバンパーが剥落していった。  すでにテールランプは破壊され、バッグドアも取れかかっている。 「もっとスピードでないの?」  後部座席に立っている女がぼやいたが、それはきっと逃げるためではなく、もっと風に当たるためだろう。 「あんた、いったい何やらかしたんだ?」 「ノン、ノン。」  女は銃を突きつけたまま、人差し指を左右に動かした。 「わたしはアンナっていうの。アンナ・E《エマ》・クロニクル。」 「そうかいっ!」  ノエルがおもむろにハンドルを切る。  いままで走っていた車線で手榴弾が爆散した。 「あなたは?」 「あ?」 「名前。」 「おれはノエルだ。ノエル・グロリア。」 「あら、素敵な名前ね。」  アンナの銃弾が追手の擲弾筒(グレネードランチャー)を叩き落とす。 「あなたって不愛想な人?」 「銃を向けられて、愛想もなにもねえだろ。」 「あははは、そうよねっ」  などと悠長に笑っている。  追手はまだ5台ほど続いている。  外見は黒塗りの高級車だが、すべてアーマード化された装甲車となっていた。  タイヤもフロントガラスも、アンナの銃弾では歯が立たなかった。
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