Scene1 銃弾《ブレット》なんてさようなら

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「おれを解放する気はないんだな。」 「いま出ていったら、挽肉(ミンチ)にされちゃうよ。」 「巻き込まれた『被害者』なんだけどな。」 「裏通りにオープンカーなんて出来すぎよ。疑われて、ズドン。」  アンナはノエルを撃つフリをした。あまり冗談にもなっていない。 「ただの偶然だ。」 「龍華街の裏通り《あんなところ》で、ノエルは何をやってたの?」 「宿探しだよ。」 「嘘くさーい。冗談は髪型だけにしときなよ。」 「これは好きでやってんじゃねえ!」  ノエルは反駁しながら、ハンドルを切った。  またも手榴弾が、道路で爆散する。 「用心棒の口でも探してた?」 「どうしてそう思う?」 「だってノエル、さっきから全部避けてるよ?」  ノエルは敵の砲撃を、かわし続けていた。 「おれは……善良な一般市民だ。」 「ふうん。」  アンナは躊躇なく、ノエルに発砲する。  ノエルはぐいと首を傾けて、皮一枚でそれをかわした。 「あっぶねぇっ! なにすんだ!」 「ほら避けた。普通だったら当たってるよ。」 「そんなことあっさり言うんじゃねえ!」 「だって善良に見えないんだもん。」  アンナはまじまじとノエルを見つめた。  逆立つ髪、血のような色のシャツ、サングラス、ロザリオ……チンピラといったほうがしっくりくる。 「信用できない人からは、銃口(これ)はずせないよね。」 「だからって、撃っていいことにはならねえだろ!」 「大は小を兼ねるのよ。」 「いや意味がわからねえ!」 「転ばぬ先の杖! 濡れぬ先の傘! といってもわたしは、雨でも傘差さないけどねっ。」 「いや聞いてねえ!」  太々しく返すアンナに、噛みつくノエル。  こうして言い合っている最中にも、銃弾はひっきりなしに飛んできている。
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