Scene1 銃弾《ブレット》なんてさようなら

14/16
前へ
/170ページ
次へ
「いいから早く、追手をなんとかしてくれ。」 「装甲が固いのよ。拳銃(ハンドガン)じゃ威力が足りないの。」 「装甲車に追われるなんて、何やらかしたんだ?」 「逃げきれたら、教えてあげるっ。」  アンナは悪戯っぽくウィンクしてみせた。 「けっ」  ノエルは気怠そうに、助手席のダッシュボードを開ける。  そこには大口径六連銃(リボルバー)が一丁しまわれていた。 「ちょっとノエル、変な気起こさないでよね。」 「いいから、どいてくれ。」  ノエルは片手に銃を取り上げると、後方へ構えた。 「わぁ、きれいな銃。」   銃身に施された山羊の彫金が、陽光に照らされ浮き上がっている。  ノエルは撃鉄を上げ、バックミラー越しに―― 「……………」  と小さく何かをつぶやいて、引き金をひいた。  バォウン!低く鈍い銃声が響く。  銃弾は、しかしむなしくも固い装甲にはじかれてしまう。 「残念。強装弾(マグナム)もダメみたいね。」  だがノエルは気にも留めず、銃を助手席に投げ捨てた。 「罪過のない人間はいない。」 「え? 何か言った?」 「山羊は生贄にされたことを恨んでた、って話だ。」 「それ何の話?」  アンナがそう返したときに、事は起こった。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加