1人が本棚に入れています
本棚に追加
「いいから早く、追手をなんとかしてくれ。」
「装甲が固いのよ。拳銃じゃ威力が足りないの。」
「装甲車に追われるなんて、何やらかしたんだ?」
「逃げきれたら、教えてあげるっ。」
アンナは悪戯っぽくウィンクしてみせた。
「けっ」
ノエルは気怠そうに、助手席のダッシュボードを開ける。
そこには大口径六連銃が一丁しまわれていた。
「ちょっとノエル、変な気起こさないでよね。」
「いいから、どいてくれ。」
ノエルは片手に銃を取り上げると、後方へ構えた。
「わぁ、きれいな銃。」
銃身に施された山羊の彫金が、陽光に照らされ浮き上がっている。
ノエルは撃鉄を上げ、バックミラー越しに――
「……………」
と小さく何かをつぶやいて、引き金をひいた。
バォウン!低く鈍い銃声が響く。
銃弾は、しかしむなしくも固い装甲にはじかれてしまう。
「残念。強装弾もダメみたいね。」
だがノエルは気にも留めず、銃を助手席に投げ捨てた。
「罪過のない人間はいない。」
「え? 何か言った?」
「山羊は生贄にされたことを恨んでた、って話だ。」
「それ何の話?」
アンナがそう返したときに、事は起こった。
最初のコメントを投稿しよう!