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日の暮れかかるころ、ポークルムという小さな宿場町にたどり着いた。
ここなら宿には困るまいと思っていたノエルだったが、アンナに先導されたのは、『パッション』という酒場であった。
「ノエル、お金持ってる?」
「はあ?」
後部座席のヘッドレストに、女帝よろしく腰かけたアンナが訊いた。
銃口はいまだにノエルを捉えている。
「なんだ、カツアゲか。」
さすがにそろそろ苛立ってきたノエルが口を尖らせた。
「違うわ。貸してって言ってるの。」
「カツアゲはみんなそう言うんだ。」
「わたしはお願いしてるのよ。」
「また『願い』か……」
「食べなきゃ人は生きていけないのよね。哀しいけど。」
「全然、哀しそうにみえねえな――OK、わかったよ。」
「ありがとっ。」
ノエルが渋々了承したのをみて、嬉しそうに車から飛び降りるアンナ。
足取りは軽く、ノエルに銃口を向けながらも先に歩いていく。
ノエルも仕方なく、アンナに続いて車を降りた。
ログハウス風の酒場はまだ新築らしく、木の香りを漂わせている。
店長の趣味なのだろうか、太い木が組まれた頑丈そうな店である。
さらに入口には、やたら大きな立看板があった。
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