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荒野を渡る街道を、一台のオープンカーが走っている。
思いっきり風を浴びている搭乗者は、だったら乗らなきゃいいのにというほど吹きつける風に苛立っていた。
「ポンコツ渡しやがって!」
無駄だとわかっていても髪を撫でつけずにはいられない。
搭乗者は若い男である。若いといってもサングラスをしているので顔はよくわからない。
ただそのなびかせた黒髪と、臙脂のシャツから覗かせる艶やかな肌が、男の若さを物語っていた。
男は忌々しげにセンターパネルのボタン――幌の張りだす絵が描かれている――を押した。
しかしガリガリと音がするばかりで何の変化もない。
連打していると、ボタンは転げ落ちて、座席の下へ消えていった。
「今度あったらタダじゃおかねえ!」
照りつける日差しは、容赦なく降り注ぐ。
果てしない荒野には、陽を遮るものなど何もない。
ビビッドレッドの塗装は底抜けに明るく、とても目立つ。
だが搭乗者のほうは、その険しい顔もあいまって暗い印象をあたえていた。首から下げている十字架も年代物で陰気である。
総じて『陰険』という言葉が似合うこの男の名は、ノエル・グロリア。その名のとおり、試練から愛される栄光を授かっていた。
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