Scene2 酒場《バッコス》なんてさようなら

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「あ、アンナさん。お支払いはもう結構ですので……」 「そうなの?」  店長は精一杯の声を、喉の奥からしぼり出す。 「本日は……お帰り願えないでしょうか……」 「え、気のせいかな? いま、わたしに帰れって言わなかった?」 「アンナさん……ハアハア……お帰りを……ハア……ください……」  過呼吸のようになりながらも、絶え絶えに言葉をつなぐ店長。 「バックス……表の看板はあなたの意志なのね?」 「そうです……あれはわたしらの意志です……」 「へえ。」 「頑張れバックス……頑張るんだ……わたしはこの日に向けて……厳しいトレーニングに耐えてきたんじゃないか……」  伏し目がちだった店長が、勃然、自身にエールを送りはじめた。 「ようやく建て直したこの店を……また破壊されるわけにはいかないんだっ!」  店長は歯を食い縛ると、3つのカクテルシェーカーを両手に構えた。 「アンナさん、見ていてください!」  店長はシェーカーをキッチンに叩きつけると、カウンターに並べてあった酒瓶を次々に注いでいった。  それが終わるとすべてのシェーカーに蓋をして、おしぼりできれいに水分を拭き取った。 「これがわたしの高次元シェーカーです!」  カウンターに並んだ3つのシェーカーを、目にも留まらぬ速さでシェイクしてゆく店長。  ときには1つ、ときには2つ、ときには3つ同時に、巧みな技でかき混ぜていった。 「おおぉぉ!」  美技を披露する店長に、アンナは目を輝かせた。 「わたしはついに発明したのです。数種のアルコール、プロテイン、ステロイド、テストステロン……それらを精緻にかき混ぜることによって、『バグ』に似た現象を人為的に発生させるカクテルの作り方を!」  店長は3つのシェーカーを、巨大な銀盃に注いだ。
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