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「これがわたしの、バグ・オブ・バックスだっ!!」
盃に黄緑色に発光する怪しい液体が満たされた。
店長はそれを両腕で掲げて、ぐびぐびと飲み干した。
「ノエル聞いた? バグ・オブ・バックス《不具合なお酒》だって!」
「これじゃあただのバグ・オブ・バックス《変なオジサン》だな。」
フン! と鼻息ひとつ鳴らすと、店長はカウンターを飛び越えてホールに降り立った。
客席を背にしてアンナに対峙すると、奇声を発しながら〈ダブルバイセップス〉を決める。
それは上腕二頭筋を強調する、ボディービルダー特有のポージングである。
すると、もともと肉厚であった店長の筋肉が、さらにもう一回り大きくなる。
続けて〈アブドミナル&サイ〉〈サイドトライセップス〉〈ラットスプレッド・バック〉など数々のポージングを極めながら、全身の筋肉を拡張してゆく。
「くふう~~どうですかアンナさぁん。これがわたしの真の筋肉です。もう昔のわたしとは違う! いまやわたしの肉体は弾丸さえも弾くのです!」
筋肉で釣り上げられた笑顔で、アンナをねめつける店長。
「ごきげんよう。」
望み通りにアンナが銃撃を加える。
「きええぃ!」
店長が気合いを入れると、弾丸は厚い胸板に少しだけ食い込んで止まった。
「ふはあっ!」
さらに掛け声ひとつで、弾丸は押し返されて地面へ落ちた。
「これであなたは手も足も出ないっ! 大人しく帰っていただきますっ!」
誇らしげに筋肉を見せつける店長。
だがアンナは微笑みを手向けると、天上に向けて撃った。
吊るしてあったシーリングファンのコードが切れて、店長の脳天に直撃する。
ふぎぃっ、と声にならない声を上げて店長は倒れた。
「バックス、もういいかしら? わたしたちお腹空いてるの。これ以上やるんだったら、機嫌が悪く《・・・・・》なるから、そのつもりでね。」
優しく語りかけたアンナに、伏したままビクッとおびえた店長……
しかし、いささかの逡巡ののち、ふたたび立ち上がるとまたも奇声を発した。
「きええええぃぃ!! バグ酒があれだけだと思ったら、大間違いだぁっ!」
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