Scene2 酒場《バッコス》なんてさようなら

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「あら、もう終わり?」  アンナがふうと一息つくと――どこからか声が響いた。 『ふっふっふっふ……』  含みを持ったいやらしい声は、店内のスピーカーから流れているようであった。  そういえば、店長の姿がない。  青年部会員とやり合っているうちに、姿をくらましたようである。 『アンナ! いや、アンナさん……』  染みついた恐怖は拭えないのか、マイク越しでも呼び捨てにできない店長の声。 『今日という今日は、一滴も飲まずに帰っていただきます。』  ファンファーレが鳴り響いた。  壁がせり出てきて、隠し部屋が開かれる。  おそらくこの店は、店長が対アンナ用に改築しまくったのだろう。  壁の中からあらわれた店長は、妙な機械を身にまとっていた。  それは強化外骨格(パワードスーツ)の一種で、より攻撃に特化した武装外骨格(アームド)と呼ばれるものである。 「それ、軍事品? よく手に入れたね。」 『あなたに勝つためなら、ローン地獄も怖くない!』  武装外骨格(アームド)。それは『神の遺物』という希少なオーバーテクノロジーを利用した兵器である。  市場に出回らない逸品を、関係者に横流しでもしてもらったのだろう。  店長が脚部のリニアキャタピラーを空転させると、キュインキュインと轟音が上がった。 『鍛え上げられたわたしの肉体を、肉の弾丸として射出する!』 「えっと……つまり『突進』ってこと?」 『わたしの思いを届けるには、これしかないっ!』  店長はすでに泡を吹き、目を血走らせていた。  バグ酒の影響だろうが、これでは狂人、いや狂犬、いや狂猪である。 『わたしがこうなったのもォッ、あなたのせいだぁァッ!』  キャタピラーが地面に触れると同時に、高速射出される店長。  アンナがひらりとかわすと、直線上に倒れていた青年部会員たちが吹き飛んだ。  さらにその激突は、もはや爆撃のように分厚い壁をえぐる。  しかし店長は、その強靭な肉体に護られて無事であった。 「あーあ、またお店が無茶苦茶ね。」
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