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アンナが無邪気に笑うのを――ノエルは部屋の隅から眺めていた。
こんなおかしな人たちの邪魔には、絶対にならないでいようと、そっと隅に移動していたノエル。
ことごとく砕けゆく、テーブルと椅子。
粉々になるグラスとビン。
ぶちまけられる料理と酒の数々。
突進する狂人と、宙を舞う大男たち。
現実離れしているゆえに、むしろ幻想的にさえ見えてくる。
さらに、それらを軽々とかわしてくアンナは、その金髪のせいか闘牛士を思わせた。
ぱすん、ぱすん。
アンナの銃弾が脚部の管にあたって、武装外骨格から液体が漏れ出した。
黄緑色に発色したそれは、どうやらバグ酒である。
常にバグ酒を体内に巡らせる構造のようであった。
『ぬふォッ。アンナさん、熱い、熱いよォッ、これだァ、これだァッ!』
「気持ち悪いなぁ、もう。」
この攻防にも飽きたのか、それとも空腹が限界を超えたのか、アンナは苛立ってきた。
『やっぱりわたしはアンナさんじゃないと燃えられない! それなのに、それなのに――』
突然店長は、ノエルを指した。
『なんですかぁ! この男は!』
「へ?」
ノエルの口から空気の漏れるような声が出る。
「別にいいじゃない。払ってくれるんだから、良い人よ!」
『良い人!? アンナさんの良い人!』
「陰険な顔してるけど、お金出してくれるんだから、良い人よ。」
『金持ちじゃなきゃダメなんですか! 所帯持ちじゃダメなんですか!』
錯乱している店長には、もう何を言っても通じない。
『憎い。アンナさんと一緒に居られるなんて……憎い……』
店長はゆっくりノエルへ向き直った。
『なんだその髪型はああああああ!!』
狂人が、ノエルに向けて射出される。
「知るかーーーーーっ!!」
絶叫のため、ノエルは身動きが取れなかった。
あたりに爆音が轟いた。
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