1人が本棚に入れています
本棚に追加
粉塵が店内の照明を乱反射させている。
ふたたび、静寂が戻ってきた。
『ハハハハッ! わたしの勝ちだァァァ!』
店長が勝鬨の声を上げる。
しかし――
「……わたしの金ヅルに何やってんのよ――」
不機嫌なアンナの声が、店長の顎下から聞こえた。
『!?』
粉塵がおさまると、店長の前には壁でなく、人影があった。
ノエルの手前で、アンナが店長を受け止めていたのである。
『そんな――バカな……』
愕然とする店長に、アンナは死を告げる《諭す》ように言った。
「いいこと教えてあげる。中途半端な力は身を滅ぼすのよ――バックス。」
『いぎぃぃぃ……』
恐怖に包まれた店長は、さらに加速しようとキャタピラーを廻した。
しかしアンナに押さえられた身体はそこからビクともしなかった。
『なぜだァッ! なぜだァァッ!』
店長の喚声も、アンナの前ではむなしくこだまするだけである。
「アンナちゃん必殺ぅ……」
『ひ、ひぎゃあァァァッ!』
「上手投げぇ!!」
上体をひねられた店長は、バランスを崩して射出され――
きりもみしながら、脳天を地面に擦りつけて――
気絶した。
「ふう。」
廃墟と化した店内には、アンナとノエルだけが立っていた。
アンナはノエルに向き直ると、
「さて、食事にしましょうか。」
と、さらりと言った。
その後、ノエルが見たものは――
バグ酒の抜けきれない大男たちが厨房では飯を作り、ホールでは酒を注ぐという光景であった。店長がどこかから机や椅子を持ってきたからよかったが、もしなかったら大男たちが机や椅子になっていたかもしれない……
「「「またお越しくださいませぇ!」」」
半壊した店の前に整列させられた店長と青年部会員たちは、清々しい笑顔を作らさせられ、満足げなアンナといまだ戸惑いを隠せないノエルを、見送らせさせられていた。
最初のコメントを投稿しよう!