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深夜。
ようやくたどり着いた宿屋で、アンナは臆面もなく言った。
「ツインで。」
「ほほう、こんなべっぴんさんとご旅行なんて、妬けますなダンナ。」
台帳係が軽口を叩く。
「新婚旅行なのっ。」
酒に酔って上機嫌なアンナは悪乗りをはじめている。
カウンターの下で銃口を突きつけられているノエルは、黙るしかない。
「お熱いですな。ダブルも空いてございますよ。」
「それも良いわね? ノエルはどっちがいい?」
「おれはシングルがいい。」
精一杯の悪態をつくノエル。
「小さなベッドで抱き合うのもいいわね。」
「そうゆう意味じゃねえ! 2部屋だ!」
「ほほほ、仲がよろしいですな。でしたらツインにしておきましょう。」
なにかを誤解した台帳係は、にやにやと筆を進めていく。
「それからオジサン、もうひとつお願いがあるの。わたしたち『泊まってない《ノー・ステイ》』ってことにしてくれない?」
「おや、いわくつき《・・・・・》ですかい?」
「駆落婚よ。応援してねっ!」
「これはまたお熱い! ええ、ええ、応援いたしますとも!」
気の回る台帳係は、明らかに偽名が書かれた宿帳にも、なにも言わなかった。
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