Scene1 銃弾《ブレット》なんてさようなら

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             ***  行商が立ち往生しているのを認めて、ノエルは車を停めた。  運搬用の馬が、暑さでへばったようである。  フードを目深に被った行商が、ひたひたと近付いてきた。 「水を売ってくれねえですケェ?」  行商はすまなさそうに言った。 「行商が水を切らすなんて、何かあったのか?」 「賊ですケェ。一番安ィ水の袋を捨ててェ、逃げてきたんですケェ。」  そういうと行商は銀貨を1枚、ノエルに差し出す。 「安ィといっても、乾いたトコじゃあ高く売れますケェ。」  だがノエルは金を受け取らずに、 「おれはすぐ次の街に着く。好きなだけ持っていくといい。」  とトランクを開けた。 「ありがてえですケェ。」  行商はトランクから水の入ったタンクを下ろすと、まずは桶に水を張る。それから自分のコップにも水を注いで、ぐびぐび飲み干した。  馬のほうも水の匂いを感じたのか、ゆっくりと立ち上がる。  そこで――馬だと思っていたものが少し違っていたことに気付く。  普通の馬よりも足が太く、鳥のかぎ爪のようになっていた。 「なんだ、『バグ』だったのか?」  ノエルは行商に声をかけた。 「へえ。こいつだけじゃねえですケェ。」  行商が目深に被ったフードを取り払うと、湿った肌があらわれた。  こちらは両生類といったようなぬらぬらした肌で、目玉も飛び出している。 「あんたも『バグ』だったのか。」 「これも神サマの思し召しですケェロケロケロっ!」  行商は耳まで裂けた口を、ぱっくりと開けて笑った。
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