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行商と別れてほどなく、アヴァルスの街が見えてきた。
山間部に囲まれた海辺の街は、豊かな水資源と開かれた港によって栄えている。
白壁のまぶしい居住区も景観がよく、穏やかであった。
買い物袋を一杯にして歩く若い女性。
犬を連れ歩く青年。
道路に椅子を持ち出して編物をする老婆。
窓越しに声をかけあう奥様方。
広場はかけっこに興じる子供たちの甲高い声にあふれている。ベランダには植物が茂り、中庭の池は水をたたえていた。
そんな中、路地を徐行するノエルは――人々の笑いの種になっていた。
風にかき乱された黒髪が、巻き貝のように逆立っていた。
「まずは宿だな。」
とっととシャワーを浴びるべきだろう――
気にしないフリをして衆人環視を抜けるノエル。
腹の内では悶々と、車を手配した者への恨みを募らせた。
ノエルは、ボードゲームに熱中するふたりの老人に、宿を知らないかと尋ねた。
老人は盤上から少しも目を離さずに、道を指差した。
「ありがとよ、じいさん。」
老人は黙ったまま、サムズアップでこたえた。
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