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しばらく進んでも、しかし宿らしき建物は見つからなかった。
居住区を抜け、中心街も抜けると、やがて倉庫が立ち並ぶ一角まで来た。
海に程近いここは、人気もなく閑散としている。
「見落としたか? にしても――」
ここはまずい。
人の少ない場所というのは災難の温床である。
受難者体質のノエルにとっては早々に立ち去らなければならない場所である。
だがそんな予感をあざ笑うかのように、巨大な石門が姿をあらわした。
朱や金で装飾された、けばけばしい石門は、〈龍華街〉の入口を示している。
そこは移住者たちによって築かれた、異人街。
法治が行き届かず、不法滞在者や犯罪者のねぐらにもなっている。
あたりは次第に祭りの喧騒に包まれていった。
どうやら月に一度の闇市を開催中らしい。
通りは怪しい商人や観光客であふれてきた。
青や黄の旗が吊るされ、派手な龍のハリボテがそこかしこに置かれている。
ここまで来たらもう引き返すことはできない。
龍華街というのは一度入り込んだら、街を抜けなければ出られないようになっているのだ。
だが、本通りは闇市で通行不可である。
ノエルは気が進まないながらも、裏通りへ回るほかなかった。
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