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彼女と別れた私はすぐさま喜一の元へと足を向ける
何度も頭を下げる二人に対し、喜一は頬をかきながら首を横に振っていた。
葵「喜一」
喜「っ!…葵!だ、大丈夫!?」
私の声に振り返った喜一の第一声はそれだ。私に叩かれた頬は赤みを帯びているが、それさえ気にせずに…私の心配をしてきています。
…怒る気すら失せますよ、全く
葵「私は大丈夫です。あんなの屁でもありません」
喜「そっか…そうだよね、葵は強いからな!」
葵「強い云々もそうですが…まあ、いいです。説教は屋敷に戻ってからとしましょう」
喜「説教!?…あ、そうか」
お説教?なんで!?みたいな顔したぞ今
すぐさま理解したからいいとしますが、とりあえずは…目の前にいる二人に目を向けてみる。
眉を下げている女子と、今にも泣きそうな顔で腰を曲げている男は…喜一から私へと視線を移し、先ほどと同じように頭を下げてきた。
「本当に…ありがとうございます。御二方がいなけりゃ、俺たちゃ今頃…!」
葵「頭を上げてください。私は何もしていません」
「っ…だが…!」
いいと言っても頭を下げようとする男にそう言えば、男はやはり泣きそうな顔をして私を見た。
本当に、感謝されるようなことはしていない。強いて言えば、私は喜一がいたから飛び出したんだ。
むしろ見捨てようとしていた私に、頭を下げるなんて…そんな真似はしなくていい
そう、私が伝えようとした刹那…男の後ろでその光景を見ていた女子が、ポツリと呟いた
「……アンタ、ずっと、見てはったんやろ…」
小さく、震えるような声で呟かれた声に対し…皆の視線が女子の方へと向けられる
不思議そうな顔をする喜一と男とは違い、私はその言葉の意味を理解している。
何も言わない私を見てか、女子は再度眉を下げたまま…震える手を握り締めながら呟いた
「ずっと…見てはったやろ…?唯一、目があったんに……何もせえへんで、ただ…見てはったやろ…」
「お、おい!何言っとるんやお前!」
「だって…!だってそうやんか!!私…助けてって、何度も言ったのに…見て見ぬ振りしたんやで…!?」
震える声で叫んだ彼女を、男が宥めようとするも…彼女はやはり、声を荒げる
ああ、見えていたんだ
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