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おちゃらけた雰囲気を出しつつも、決して気を抜こうとはしない彼女は…職業柄と言っていましたな
要は、そういう仕事をしていると…
葵「あ、そうか。私が受けようとしていたのって暗殺系のものでしたっけ」
「なんや、もう忘れとったんか。さっき振られてしもたけど……うち、お兄さん素質あると思うねんよ」
葵「素質、ですか。なけりゃ今までの人生かなりの困りもんですよ」
「…相当な手練れだとは思ったったんやけど、そっちも経験者なん?」
手練れか、そう見えたなら嬉しいですね
経験者かどうかと問われれば、曖昧な返答になる気がします。私はあくまで殺しをしてきたわけであり、暗殺をしてきたわけではないので
葵「…何方にせよ、仕事はお断りをしたはずです。素質があろうがなかろうが、あなたと手を組む気はありません」
「なんや、もしかして怒ってるん?さっきの子供のこと」
葵「さて、どうでしょうね」
曖昧な返事を返しつつ、地面に散らばった湯飲みのかけらを拾っていく
もう気にはしていないけれど、怒っていないといえば嘘になる。あれは…喜一に対しても、私に対しても侮辱の言葉だからね
それに…
「"殺さずして、敵を倒せる"。なんて甘い考えしとるんやったら、お門違いやで。お兄さん」
葵「……は?」
かけらを拾っていた手がピタリと動きを止めた
今まさに考えていたことを当てられ、思わず曖昧な声が漏れてしまいましたよ
…あなたにお門違いと言われる筋合いは、どこにもないのでは?
そんな思いが伝わったのか、女子は縁側で足を揺らしながら笑みを浮かべ…私の前へと歩み寄ってくる
「そんな甘っちょろいこと考えてるのは勝手やけど、その結論に至るまで…お兄さんは何人殺したん?」
葵「…その質問に答える義理はありません」
「それが答えや。結局、最早自分が何人殺したかすら覚えてへんのやろ?なら、お兄さんがいっちばんわかってるはずや」
一度染めたものを、元に戻すなんてできないんだってことを
笑いもせず、ただ真っ直ぐに向けられた言葉と瞳に…私は何も答えることができなくなった
彼女の言う通り、私は…この手で何人の命を奪ったかなんて覚えていなかったんだ
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