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動けずにいる私を見て、喜一は困ったように笑いながら倒れた男の傍らにしゃがみこむ
悲しい顔をしたままの、悲しい笑顔で
喜「葵のせいなんかじゃないって、俺にでもわかるよ。あの時…俺が考えなしに突っ込んでなきゃ、こんなことにはなってなかったもん」
葵「それは違います。私があの場でカタをつけていれば、喜一に…喜一達に危害が及ぶことはなかった」
喜「………その選択ができたのは、葵が強いからだよ」
見たことも聞いたこともない表情や声で語る喜一に、私の思考はどんどん絡まっていく
なにが言いたいのか、どうしてこんな状況になったのか、全然わからない
喜「……俺とか、葵みたいに強くない人とかはさ、必死なんだ。自分が死ぬかもしれないって思ったときに、相手を生かして倒すとか…そんなことを考えてらんないんだよ」
葵「…どう、いうことですか…」
喜「そのまんまだよ。だから俺は、無我夢中でこいつらを殺した。自分が生きるために……結局、親を殺した時と、なんも変わってなんかなかった」
困ったように笑いながら私を見た喜一は、何かを諦めたかのように立ち上がった
両親を殺めた時も、生きるがために…無我夢中でその手を汚した
だから私と、今度は誰かを守る力を養って行こうって…そう、話したはずなのに
喜「誰かを守りたくって、強くなりたいって思ったのにさ。結局俺はもう、このやり方じゃないと生きていけないんだって…逆に思い知った。だから…」
葵「……やめなさい」
喜「だから俺は、もう……葵達と一緒には、いられない」
葵「やめろ!!!」
どれだけ止めようとしても、喜一は止まらず語り続ける
聞きたくない、聞いていたくない
そう思っていても、自分の足を動かすことすらできない私を見て…喜一はまた、笑って言った
喜「…俺、葵のこと大好きだよ。だから、また会った時は……葵のこと、沢山教えてね」
葵「っ…き、い……」
刀を鞘に収めた喜一は、最後は優しい笑みを浮かべながら私の前を去っていく
それを止めることすら出来ない私は、もう返事をしてくれない喜一の背中を…見つめることしかできなかった
止める、資格がなかったからだ
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