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『守る為の力を、養っていきませんか?』
そう言ったのは私だった
けど、その当人が…守る為の力なんて持ち合わせてなくて。そんな人間が…誰かを守る力をなんて教えられるわけもない。
それでも、理由をあげたかった
それが生きる糧になり、過去と向き合える力になるなら…少しでも力を貸したいと、本気でそう思っていたんだ
彼はあまりにも、純粋で…優しい心を持っていたから
葵「……なんて……浅はかな」
でも、結局それが…彼の心を傷つけた
周りが優しいから、自分もそうなれた気になっていて。
中途半端な私のせいで、また人を…心を…粉々にしてしまった。
『葵は凄いね。やっぱり才能の違いかな?』
『葵には敵わないなぁ。僕も頑張らないとね!』
『……もう、疲れちゃったんだ』
以前、そう呟いたある人を思い出す
最後に見たその顔は、先ほどの喜一がしていた優しい笑顔と同じで……私が過ちを犯してしまったのだと、そう理解させる
『僕には、ダメなんだ。葵が、君がいるんだから……僕はもう、不要でしょう?』
葵「っ……違う…」
『じゃあね葵。また会った時は……沢山話しを聞かせておくれ』
優しい声と笑顔でそう言ったその人は、私の声を無視していってしまった。
違う、無視をしたんじゃない。
私がそう、させてしまったんだ
『……いかないで…』
葵「……っ……いかないで…」
鉛のように重く感じる体を抱き、信じられないほど弱々しい声が漏れた
あの時も、今も…こんなに苦しいのに、涙が出ないのは何故だろう
『……いかないで……兄様』
葵「っ……喜一……」
あの時も、今も
動くことができないまま、自分の腕を強く握りしめることしかできない私は…誰よりも弱い
皆が思っている以上に、私は何も出来ない
ただただ動けず、何も出来ない私のことを…夕焼けの空だけが、静かに照らしていた
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