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ピタリと動きを止めた私を見かね、彼はやはりと声を漏らす
私が、臆病?
今の流れで、何がどうして、そういう結論に至るんだ
龍「向き不向きとか言ってたな。確かにお前に子供の相手は不向きだと俺も思うが、ならば何故今の今までやってきた?」
葵「…頼まれたからやっていた。それだけです」
龍「そう、お前は頼まれたからやっていただけ。無理だの何だの言いながら、お前はそれをここまでやってきてんじゃねぇか」
葵「だから、もう嫌だと…」
龍「自分勝手にほっぽりだして…自分が傷つきたくねえ理由並べて逃げるっつうなら、とんだ臆病者だろう」
ズカズカと、私の中を踏み荒らしていく彼の言葉に…私はようやくそちらに顔を向ける
真っ直ぐと、揺らぐことなく向けられるその瞳に…またも体が重くなる気がしながら
葵「…臆病者ならそれで結構です。私は彼らに、人に剣を教える才はない……私にあるのは、人を殺すことが出来る才だけです」
龍「何が殺す才だ。自惚れたことぬかしてんじゃあねえよ」
葵「っいい加減に…!!」
煽るような言い方をされ、ついカッとなりそうな心を落ち着かせようと拳を握る
自惚れた覚えは一度もない
でも、皆がそういうから…私には、これしかないんだ
『お嬢は殺しの才がある、流石っすね』
『葵は強いから』
『葵がいるんだから、僕は必要ないでしょう?』
最初からこうだったわけじゃない。気がついたら、こうなっていたんだもの
強くなりたいと思ったから、そう思われるように頑張ってきたんだ
でも、これは…元々の才能があったからって、皆が言う。ならば…そうでしかない
服を強く握りながら、頭の中を駆け巡る言葉たちを飲み込んでいく。そんな時、ふと…一つの言葉が私は突き刺さる
「それは、才能じゃねえ。てめえ自身で作り上げた実力そのもんだろう」
葵「……え?」
強く閉ざしていた瞼をゆっくりと開ければ、目の前にある影が目に入る
ゆっくりと影をたどりながら顔をあげれば……そこにあるのは優しい笑顔で
龍「てめえがてめえを強くする為に努力した結果を、才能があるだなんて言葉で片付けられるわけがねえだろう」
そう言いながら私を強く抱きしめた龍之介さんの言葉に、私は動きを止めたんだ
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