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彼女の墓前に戻ってきた。
墓の前には、僕が捧げた花と、花びらの欠けた一輪のコスモスが静かに置いてあった。
僕はそのコスモスにゆっくりと近づいて、そっとしゃがんで手に取った。
そのとき、風が周りのコスモスを揺らした。
ざあ…という静かなそのざわめきは僕の心を不思議と落ち着かせた。
ざわめきが少し小さくなり、そよ風になるまで僕はずっとコスモスを見つめていた。
やることは一つだった。
僕はコスモスの花びらが欠けているその隣の花びらをやわらかく一枚ちぎった。
花びらはぽとりと墓の前に落ちた。
僕がコスモスをじっと見つめていると、
ぽとり、と花びらが一枚ひとりでに落ちた。
僕はそれを見てついに確信した。
彼女がずっと待っていたことに。
3年前のあの日からずっと待っていたことに。
僕の帰りをずっと待っていたことに。
死んでもなおずっと待っていたことに。
僕がこうして花びらをちぎるのをずっと待っていたことに。
仕事で忙しい僕を、文句も言わずずっと待っていたことに。
3年間ずっと待っていたことに。
僕の足は力を失い膝をついた。
そして、僕は震える手で次の花びらをちぎった。
また、ぽとり、と花びらが落ちた。
僕はついに耐えられなくなって、ぎゅっとコスモスを胸の前で握りしめ、とめどなく涙を流しむせび泣いた。
嬉しさ、悲しさ、悔しさ、情けなさ、申し訳なさ、いろんな感情の流れに身を任せた。
ぽとりぽとりと落ちる涙が、残っているコスモスの花びらをうった。
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