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ひとしきり泣いた後、僕はぐっと涙をこらえて視線を上げ、真っ直ぐに彼女の墓の方を向いた。
僕には、もう逃げないと決めたからには、彼女に伝えなければいけないことがあった。
さっき彼女に話しかけた言葉でさえ、あれはまだ逃げたままの、彼女に向き合えないままの言葉だったのだ。
だからもう一度、ちゃんと心を向けて伝えなければいけなかった。
僕は次の花びらを優しくちぎった。
そしてまた、彼女に話しかけるような言葉をぽつりぽつりと思い浮かべ始めた。
───3年も待たせて……ごめん……
仕事が忙しかった……っていうのは嘘なんだ。
確かに忙しかったんだけど、それだけじゃなかった。
僕は、君が死んだことをずっと受け入れられなかった。
ずっと拒絶し続けていた。
だから、君のことを思わないようにしていた。
忘れようとしていた。
記憶が薄れるのは仕方がないと、自分に嘘をついていた。
頭を動かしていても、心なんてそこには全く無くて、思う、じゃなくて、考えているだけだったんだ。
そうやって考え続けることだけをして、思うふりをし続けて、自分の弱さに気づかないようにしてた。
だけど今日ここにきて、その弱さに気づかされた。
君から逃げ続けている、自分を守る自分に気づいたんだ。
君はまだ待ち続けていたのに、本当に申し訳ないし、情けないと思う。
だけど僕はもう逃げるのは止めた。
だからここに誓おうと思う。
君を絶対に忘れない。
どれだけ時間が経っても、記憶が薄れていっても、埋もれていっても、必ず君のことを忘れずにいる。
君の死を受け入れて、一緒に生きていくことにする。
……こう言い切るまでに時間がかかってごめん。
ずっと待っていてくれて嬉しかった。
本当にありがとう───
僕が語りかけ終わると、コスモスはそれを聞き届けたかのように、また一枚花びらを落とした。
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