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僕は泣き腫らした目で落ちていく花びらを追いながら、少し微笑んだ。
彼女の返事が聞けたような気がしたから。
どんな返事かは、わからないけれど。
花びらはもうあと一枚だった。
僕は最後の花びらをちぎらなければいけない。
けれど、なんとなく、これをちぎってしまったら彼女が行ってしまうような気がした。
今こうやって近くにいると感じられる彼女が、もう手の届かない遠い空高くへ行ってしまうような気がした。
二度と会えない気がした。
…でも……彼女はもともとここにはもういないはずの人だ。
ずっと僕が待たせてしまったせいで、ここにいる人だ。
だから僕が来た以上、もうここにはいられない。
もしも彼女がずっといるとしたら……僕の心の中だ。
僕は彼女に誓った。
もう忘れないと約束した。
花びらをちぎりながら、契りを交わした。
だから彼女がいなくなるなんてことはない。
今まで逃げ続けたけど、僕はこれから彼女と生きていく。
そう決意して、僕は一片の寂しさを感じながら最後の花びらをちぎった。
──彼女が最初の花びらを落とした時、好きから始めたのか、嫌いから始めたのかはわからなかった。
けれどそんなことは関係ない。
最後の花びらが好きだろうが嫌いだろうが、それに対する答えは「正解」でも「間違い」でもない──
「愛してるよ」
ただそう伝えたのだった。
僕と彼女が落とした花びらたちは、風に吹かれてどこかへ行ってしまった。
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