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彼女の墓に初めて一人で来たのは、彼女が死んでから3年目のことだった。
墓場は、背の高いコスモスがあたりに咲いていて、死人にも笑顔で会えるような、そんな穏やかな風景が広がり、僕は現地で買った手向けの花を手に持ってそのコスモス畑を縫う小道を歩いていた。
僕は花の香りの間を抜けながら、彼女のことを思い出していた。
思い出したのは、彼女の姿、服装、髪、香り、温もり、声、瞳、笑顔───もちろん、もう2度と見られないものばかりだ。
そして、こうして思い出す度に気づくのは、記憶の鮮明さが失われていっていること。
僕の中から、ゆっくりと彼女が失われていっていること。
これは避けられないことだ。
どれだけ深く刻み込んでも、ほかの記憶がそれを埋め立てていってしまう。
でも、こうして思い出すことが彼女を僕の中に留めておく──言ってしまえば、長持ちさせる唯一の方法だ。
使わない記憶はすぐになくなってしまうから、何度も何度も記憶を使って、記憶に浸かって、使い古すほどに持ち続けなければいけない。
だから怖がらずに、彼女のことを思い出そうと思う。
いつか居なくなってしまうその日まで。
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