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彼女の生きた時間を思い出しながら、その彼女の死の証である墓へ向かっていると、必然的に彼女の死の場面が思い出された。
僕は彼女のために食べ物を買いに行こうとしていた。
──ここで待ってて──と僕が言うと、彼女は──ずっと待ってるから……生きて帰ってきてね──とふざけて答えた。
なんでそんな大げさなんだよ、いってきます、と軽く笑ってから、僕は店に入って列に並んだ。
列もだいぶ進んだその数分後、鉄製のトレイが落ちたような大きな物音がした。
突然したその音は店の中からだと初めは思ったが、そこに加わった悲鳴からそれが店の外のものだとわかった。
列から身を乗り出して入口のドアの方を見るとと、さっきまでそこに見えていたはずの彼女の姿が見えなかった。
嫌な予感がした。
僕は焦燥感に駆られて急いで列を抜け、外にいる、外にいるはずの彼女の元へと向かった。
そしてドアを開けたとき目に入ったのは、道に横たわる、彼女のスカートを履いている、誰かの下半身だった。下半身だけだった。
マネキンのように転がっているそれから散った臓物の方向には、工事現場の壁に使われる正方形の白い鉄板。
その白いキャンパスには鮮血が飛び散っていた。
しかし下半身とは違って、その鉄板が横たわっていたのは道の上ではなく、何かの──いや、誰かの上だった。
大きな鉄板からは、彼女の婚約指輪をした、誰かの腕が覗いていた。
目の前のその状況をゆっくり理解するたびにヘドロのような喪失感は襲いかかり、同時に、彼女が真っ二つになっただなんて理解したくないと思った。
生きて帰ってきた僕を待っていたのは、彼女の死だった。
最後に交わした約束は、果たされることはなかった。
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