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最後に交わした待っているという契りは、ちぎれた体で果たされることになった。
なんて冗談を言えるほどには、僕の心は回復したように思う。
いや、なんて冗談だよ、という話だけれど。
ご両親には聞かせられない。
聞いてくれるとしたら、目の前の墓に眠っている彼女くらいだろうか。
彼女はなんというか、天然というか、お茶目というか、大雑把というか、心の広いというか、そういう人だった。
僕のこんなひどい冗談を聞いても、ああーダジャレだ!上手ー、とか言って笑ってくれるだろう。
千秋家の墓。
彼女が眠る墓だ。
今まで四度ほど訪れたけれど、一人で来てみると、今までよりも強い喪失感に襲われた。
僕にはその墓標が、彼女の生きた過去と、彼女のいない現在とが綯い交ぜになった現在でも過去でもないもののように見え、そして僕はその狭間で無様に生きていて、現在を見ながら過去に浸っているのか、現在に溺れながら過去を見ているのか、なんにせよ未来に目を向けられないというような、そんな喪失感。
…………苦しい。
最低ながら、あまり墓に目を向けていたくない、ここに長くいたくない、終いには早めに帰りたいとさえ、微かに思ってしまった。
僕は突っ立ったまま眺めるのはやめて、手向けの花を捧げることにした。
ところが、墓石の元に置こうと膝を折ったとき、まさに手向けの花が捧げられているかような位置に、一輪のコスモスの花があることに気がついた。
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